地方自治体などでは、そろそろ異動の内示や組織改正等が発表されたことかと思います。
今回の中身の記事では、来年度から新人の教育係(ここでは「メンター」といいます。)に指名された方へ、その準備等を私なりに書いていこうかと思います。
メンターは、新人のキャリアを左右する
まず、メンターになった方は、自分が「新人のキャリアを大きく左右する存在である」という認識を持ちましょう。
入庁時に新人が教わる内容は、仕事の基礎です。基礎に欠陥があれば、その上にどんなに良いものを建てたとしても、ねじれた構造になってしまいます。だから、基礎を教えるメンターは重要な役割なのです。
また、その新人が、今後異動した先でどのような評判を受けるかは、自分の評判に直結することもあります。褒められることはあまりないかもしれませんが、「誰が育てたんだ!」と陰で評判を落としていることもあるのです。
ですから、もちろん新人にとっても、自分にとっても、メンターとしてどのように準備し、どのように教えていくのかは非常に重要です。
新人だったころを思い出そう
では、どのように準備をすればよいのか。
まずオススメするのは「自分が新人だったことを思い出す」ということです。
例えば、自分が入庁1年目だったころに使っていたメモや資料などを掘り起こしてみましょう。
そのメモや資料を見ると、いかに自分が無知であったか、そして自分がいかに、知識や経験を積み重ねてきたかに気づくと思います。
彼ら新人は、何も分からないのです。むしろ、入庁早々に「役所の常識」を知っていたら、恐ろしい。
あなたの今の地位は、自分が努力できる時間と周りの人の支えがあって、初めて成り立つものです。
その「時間」と「支え」というアドバンテージがない新人に、多くを求めてはいけません。ましてや「なんでこんなことが分からないんだ!」と叱るなんて、してはいけません。
また「自分が新人だったことを思い出す」ことは、メンターとして新人を教える際の具体的な指針にもなりえます。
つまり、「自分が新人だったころに周りからされたことで、嬉しかったことはする。嫌だったことはしない。」ということです。
そういった「ポジティブ(ネガティブ)リスト」を書き出すことによって、新人に対する接し方は、ただの精神論ではなく、より具体的な方法になっていきます。
このように、メンターとして新人に接する際は、まず新人の立場になって考えてみることが大事です。
具体的な方法をあれこれ考える前に、落ち着いて考えてみましょう。
項目を考えよう
自分が新人だったことを思い出したら、次は、教える項目を具体的に考えていきましょう。
具体的な項目は、前項で述べたような「新人の頃に使っていたメモ」などを参考にするとよいでしょう。
自分が昔つまづいた部分は、新人もつまづく可能性が高いからです。
普段業務をしていて思いついたことでも構いません。とりあえず「これを教えよう!」と思ったことをリストアップして、まとめていきましょう。
ちなみに、私がリストアップしていた項目はこんな感じ。
出退勤の管理、残業申請の仕方、有給の取り方、文書管理の方法、書類整理の方法、文房具のありか、コピー機の使い方、雑用のやり方、PCの使い方、メールの設定(署名など)、業務内容、1年のスケジュールと繁忙期、組織や役職の構造・・・
まだまだありますが、詳細な内容や順番などは気にせず、とりあえず書き留めておくことが重要です。
また、出し惜しみしないこと。知識や経験の専有は、自分の価値の向上には繋がりません。
順番を考えよう
リストが溜まってきたら、今度はどのように教えるかを考えましょう。
まず考えるべきは、教える項目の順番です。
リストの内容を1日で覚えてもらうことは不可能です。
そこで、次のような順番で整理をしていきます。
1. その項目を大まかなジャンルに分ける。
2. すぐに教えなければいけないジャンルと、そうでないジャンルに分ける。
3. ジャンル内にある項目で、優先順位をつける。
このようにすることで、教えるべき順番がある程度判明していきます。
注意しなければならないのは、この順番はあくまで目安であって、必ずしも守らなくてよいということです。
ここであなたが並び替えを行っている理由は、あくまで大雑把な方向性を掴むためであって、「順番どおりにしなければならない!」というルール作りではないのです。
内容を考えよう
教える順番が決まったら、次は教える内容(=項目の中身)を考えていきましょう。
やり方は、項目を考えるときと、ほとんど同じです。
一つの項目の詳細な部分を広げていくような形で、教える内容を書いていき、後で順番を付けて整理していきましょう。
ここで注意すべきは、教える内容を考える際には、内容とともにその理由や他の項目とのつながりも考えるということです。
例えば、物品の購入などで契約業務を行う際は、様々な書類を印刷し、ハンコを押してもらうことになると思います。
これらの「書類」や「ハンコ」は、それぞれに意味があるはずです。
これらの意味を教えずに「そうなっているからやりなさい」と言っても、新人は納得しません。
逆に、教える内容に理由をつけたり、他の項目とのつながりを示すことができれば、記憶の定着率もよく、芋づる式に覚えることができます。
そして、理由やつながりを考えることは、あなた自身にとっても役立つことなのです。
つまり、理由付けやつながりは自分の知識や経験の言語化であり、体系化であり、この作業は、ゴチャゴチャした今までの経験を整理し、頭に定着させるという意味で、とても重要です。
教える内容を考えることは特に難しく、おそらく正解はありません。
だからこそ、真剣に取り組んでいきましょう。
方法を考えよう
教える項目と内容が決まったら、次は教え方です。
色々な手段を複合的に使うべきですが、私のおすすめは、「マニュアルを作って渡す」です。
利点としては3つあります。
1. 付きっきりにならなくてよい。
2. 後でアップデートが出来る。
3. 文書に残すことで、何年後も使える。
一番の理由は、メンターが本来抱えている業務に充てる時間を確保することです。
教える際は、最初は付きっきりで一緒にやってみましょう。そのあとは基本的にマニュアルを見ながらやってもらい、困ったときに質問してもらう方式にしましょう。
そうしなければ、いつまでも自立しませんし、メンター自身の負担が大きくなります。
ちなみに、この方式を取る際は、教える前に「付きっきりで教えるのは、1回だけだからね」と宣言すると良いと思います。
また、文書に残すことで、新人自身が使いやすく加工できますし、新人に対してだけでなく、ほかの職員に共有することもできます。
マニュアルを作るのは大変ですが「内容を考えよう」でも書いたように、自分の知識や経験の体系化として、マニュアル作りは重要です。
異動する際の引継ぎ書も兼ねて、作ってしまいましょう。
1対1の面接をしよう
ここであなたに質問があります。
そもそも「メンター」という存在は、なぜ必要なのでしょうか?
色々な理由がありますが、大きな理由としては、3つ挙げられます。
1. 「誰に聞いたらよいか分からない」という不安を消す。
2. 新人にとっての「味方」を作る。
3. 新人と他の係員とのコミュニケーションのハブとなる。
しかし、「不安を消す」とはいっても、新人にとっては、メンターですら不安です。
質問のタイミングや内容など、コミュニケーションの取り方が分からずに、そのまま問題を抱えてしまうこともあります。
そこで、おすすめなのが1対1の面接です。
面接といっても、試験をするわけではありません。
面接の狙いは3つあります。
1. 職場での悩みや仕事で分からないことをじっくり聞く。
2. メンターとのコミュニケーションの取り方について、ルールを決める。
3. 新人に対して「私はあなたの味方ですよ」と安心感を与える。
1つ目について。
仕事中では、新人からみればメンターはいつも忙しそうで、なかなか質問する勇気が出ません。
そこで、周りに職員がいない面接の場を設けることで、じっくりと安心して質問を受けることができます。
ただ、質問を受けるためには、事前に面接を予告し、聞きたいことをまとめてもらうように指示する必要があるため、その点には注意してください。
ちなみに私は、あえて業務時間外に面接を行うことで、残業申請の仕方も一緒に教えました。
2つ目について。
面接では、業務中の質問のタイミングなどについて、認識を共有することも大事です。
「忙しいときは、忙しいっていうから、とりあえず分からなかったら質問して!」などと伝えるだけで、新人は不安から脱することができます。
最後に、安心感を与えること。
1対1の面接は、「あなたを大切に思っているのだ」ということを、言葉だけでなく行動で示すことができます。
教えることと教わること
以上、メンターとしての心構えや準備などを書きました。
私の経験上、メンターというのは「新人に教えること」とともに、「新人から教わること」も多いです。
何年も職場にいると、やはりその職場の習慣が「常識」として身についてしまいます。
メンターになることは、職場の常識をリセットし、もう一度捉えなおすキッカケにもなります。
「自分の仕事をしながら、メンターなんて無理だよ~」という方もいることでしょう。
しかし、 あなたはすでにメンターに指名されてしまったのです。
指名された以上あなたには、より能率的に、より効果的に、メンターという職務を全うしていく責務があります。
これも良い機会だとポジティブに捉えて欲しいと思います。
なお、新人の側から見た、以下の記事も書いています。
参考までにご覧いただければうれしいです。