昨日、この記事を読みました。
「4月一斉異動っておかしいよね?」という感覚はなんとなく分かりつつも、ちょっと間違っているのではないかと思ったので、現役公務員として書いてみたいと思う。
ちなみに、人事担当になったことはないし、勉強したこともないので、あくまで推測であることはご了承いただきたい。
話す前の前提として言っておきたいのだが、公務員の異動は、4月だけに行われるわけではない。法律でそう決まっているわけでもない。
ただ、大部分の異動は4月に行われている。そういう意味で「慣習」という言葉を使っている脱社畜ブログさんは、正しいと思う。
組織改正と人事異動
まず疑問に思ったのは、公務員の異動について話題にしながら、組織改正については全く触れられていないことだ。
4月というのは、人事異動だけでなく、組織改正が行われる。
新しい組織が出来ると、それに伴って異動が行われる。当たり前の話である。
なぜ4月に組織改正が行われるかといえば、予算の都合が大きいだろう。
会計年度は4月1日から始まり、翌年の3月31日に終わる。
これは、慣習ではなく、地方自治法第208条に規定されている。
第二百八条
普通地方公共団体の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わるものとする。
各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつて、これに充てなければならない。
自治体は、この法律に則って、4月から新しい予算の下で業務を行う。
新しい予算では、新しい取り組みを行うことも多い。この新しい取り組みに伴って、新しい組織が創設されたり、逆に不要な組織はなくなったりする。
では、組織改正に伴う人事異動は、「特に理由のない異動」なのだろうか?
「空いた場所に人員を補充する」という意味で、組織改正に伴う異動は、まさに「パズルのピースを嵌めることだけを目的に異動させられる」ことに当てはまってしまうのではないだろうか。(もちろん私は違うと思うが)
4月一斉異動は、逆に効率的なのではないか?という視点
「4月一斉異動」という言葉からは、なんとなく「新卒一括採用」と似たような雰囲気を感じる。
みんなが同じことをするし、その時期にやる理由も特になさそう。しかも、公務員。
そう考えると、なんだか非効率な気がしてきた。
なんとなくそういう印象を与える。
しかし、私から見ればそれは先入観なのであって、最初から批判的な目線であるように見えてしまう。
「異動のタイミングが4月に固定されている」というのは、職員としてはありがたいことである。
個人の視点では、異動に向けて引継書の作成などの準備もできる。
その人の知識や経験を共有するために、担当の割振りを考えることも出来る。
年度の途中で変わらないから、有給や時間外勤務手当の引き継ぎなども必要ない。
なにより、先が見えるから、色々な業務計画が立てやすい。
逆に、年度途中で異動となれば、年度単位で行われている業務に反していることになる。
そうなると、引き継ぎの難易度も高くなり、引き継ぎミスも増えてしまうだろう。
こうやって考えていくと、4月一斉異動はデメリットばかりではない。
異動の目的は、果たしてどのように分かるのか?
そもそも、脱社畜ブログさんの言う「異動すること自体が目的となっている異動」は、果たして現実に存在しているのだろうか?
このようにして記事にされると、あたかもそのような異動が存在することが前提となっていて、少し驚いてしまう。
例えば「異動すること自体が目的となっている」というときの「目的」とは、一体誰の「目的」なのだろうか。
また、私たち職員は、その「目的」をどのようにして知ることが出来るのだろうか。
異動のシステムというのは、かなり複雑である。
市長が独断で何もかも決めるということは、まずない。
部長や課長、職員本人の意向、来年度の組織編成、新規採用で入ってくる人の数や属性など。様々な要因によって決まっている。
そのような複雑なシステムの中で、「職員が分かるような目的」というものはあまりない。
それは「目的がない」ということではない。「目的があってもなくても、職員側は目的を推測するしか無い」ということだ。
だから、例え勤続年数が長いとしても、「◯◯さんは、もう6年目だから、そろそろ異動かもね」というぐらいしか言えない。
このような中で、異動の目的をどのようにして、正確に理解することができようか。
定期異動に対する誤解
脱社畜ブログさんは、定期異動が行われている理由について、3つ挙げている。
1. 人員の固定化による癒着防止
2. ジョブローテーションによるゼネラリストの育成
3. マンネリ化によるモチベーション低下の防止
なるほど確かに、的を得ているような気もする。
「人員の固定化による癒着防止」について
確かに、異動の目的には、癒着の防止もあるのかもしれない。(前述のとおり「かもしれない」としか言えない。)
しかし、癒着の防止だけが目的で異動が行われることは、おそらく無いのではないか。
というのも、癒着の危険のある部署とは、会計部署や契約部署だと思うが、他の部署と比べて異動回数が特段多いということは感じられないからである。
もし、そのような理由があったとしても、おそらくそれは副次的な部分が大きい。
また、脱社畜ブログさんのおっしゃるとおり、癒着の防止だけの理由なら、ちょちょっと異動させてしまえばいい。(人事担当部署も喜ぶだろう)
それを行える環境にあるにも関わらず、やっていないということは、定期異動が行われている理由にはなっていないということである。
「ジョブローテーションによるゼネラリストの育成」について
確かにジョブローテーションによって、3年~4年やったら異動するという話はよく聞く。
しかし、その目的は、ゼネラリストの育成ではないと思っている。
というのも、少なくともうちの役所におけるジョブローテーションは、1年目~7年目ぐらいの職員が対象であるからだ。
ジョブローテーションの目的は、「様々な部署を経験することによって、自分の強みや希望する仕事を明確にする」ということが第一である。
そのため、ただ無目的に異動させるのではなく、住民票の交付のような「窓口職場」の次は、部署間の折衝を行う「調整部署」などと、異なるジャンルの部署を経験させるのである。
そうすることによって、自分のやりたい仕事を見つけ、異動希望調査や管理職との面接などで、異動希望を伝えることが出来るし、勉学に励むこともできるだろう。
だから、少なくともわたしの役所では、「ゼネラリスト育成!」などと標榜していないし、育成もしていない。
すべての部署を経験するのが不可能なことからも、「ゼネラリストの育成」が無理なことは分かることであろう。
「マンネリ化によるモチベーション低下の防止」について
マンネリ化によるモチベーション低下の防止については、異動の理由として確かに挙げられると思う。
激務で有名な部署に異動が決まったとき、よくかけられるのは「3年頑張れば、異動できるから...!」という慰めの言葉である。
さすがに面と向かって「モチベーションが低下してきました」と言う猛者は居ないと思うが、将来異動できるというのは、一つの希望でもある。
また、脱社畜ブログさんは、「それまで積み上げてきた能力などを放棄して」と書いているが、これは全く違う。
今まで積み上げてきた能力や経験は、違う業務であっても必ず役に立つ。役所の仕事は、意外と繋がっているものなのである。
つまり、3については、論理的には「どちらとも言えない」になるとは思う。しかし、働いている者としての実感としては、「デメリットが大きい」とは言えない。ただこれは、あくまで主観的判断である。
最後に
脱社畜ブログさんのおっしゃりたいことは、なんとなく分かる。
しかし、今回の批判については、ほとんど当てはまっていないように思う。
冒頭に申し上げたように、私も人事担当の経験がないので、役所内部の人間としての推測でしか言えない。
ただ、見方を変えれば、このような記事が出ること自体が、公務員の発信力不足なのであり、そういったところは恥じなければならないと思う。