かつげんの拠り所

1992年生のしがない福祉系地方公務員のブログ

ケースワーカーの交渉術

ケースワーカーは、関係者の間に入って調整することが多い。調整というが、内実としては「交渉」であって、関係者の利害を考えつつ、どうやってまとめていくかというのは、結構難しい。

私は、交渉をカードゲームのように捉えているので、その考え方をメモ的に残しておきたい。

交渉の準備

「交渉することになりそうだ」と思ったら、まずは、よりよい手札を事前に構築することが大事だ。交渉は、大富豪やポーカーのように、ランダムに手札が決まるわけではなく、自分で手札を構築することができる。

だから、自分の意見を通りやすくするために、相手へ指摘する部分を整理したり、逆に指摘されそうな部分については、どう回答するかを考える。相手とどのように交渉していくかをシミュレーションしつつ、攻守の手札を揃えるのが重要である。当然ながら、手札は効果的であればある程よいし、多ければ多いほうがよい。

自分から交渉ごとにしない

そもそもの話だが、交渉まで至らず、こちらの要望がすんなり通るのであれば、目的は達成されるのだから、それでよい。しかし中には「せっかく準備したのにもったいない」という気持ちになるのか、先にこちらから手札を切って、わざわざ交渉ごとに持ち込んでしまう人がいる。もちろん、こちらから話し始めなければならないときもあるだろう。そういうときは、要望や議題だけを提示し、相手にまずは喋らせる。細かい理由(手札)はあとに取っておくのがよい。

先にこちらから手札を切ってしまうと、相手も臨戦態勢になる。提示されたカードに疑いの目をもったり、提示されたカードから連想して、質問が飛んだりすることもある。

戦わずして目的が達成できるのであれば、それに越したことはない。「もったいない精神」で余計なことをして、話をややこしくするのではなく、目的達成のことだけを考えなければならない。

手札をどうやって切るか

手札は、できる限り一枚ずつ切るのがいい。相手から質問や指摘が飛んできたら、その内容に合わせて手札を切るのが理想だ。これも「もったいない精神」なのか、質問が一回飛んできただけで、すべての手札を切ってしまう人がいる。

例えば「ご指摘の件は、〇〇になってるので難しいですね。」とだけ言えばいいものを「〇〇になってしますし、✕✕との兼ね合いもあります。それに…」と手札を全て公開する。

このような手札の切り方をしてしまうと、相手に余計な情報を与え、想定外の指摘をされてしまう可能性が増える。

「言われたとおり承認すること」を嫌がる人への対策

ケースやその関係者と話していて思うのは、「提示されたものをそのまま承認する」ということに、拒否感を覚える人が一定数いるということだ。そういう人は、自分の納得感を得るために、一度はツッコミを入れたがる。

つまり一定数の人が、指摘の内容よりも「指摘に対して適切に解答できるのか?」という「人への信頼性」を見ている。内容よりも、「会話のリレーがちゃんと続くのか?」ということに重点を置く。そういう人は、会話のリレーさえ続けば良いのだから、一度に手札をすべて切らずに、小出しにしたほうが良い。

何度指摘しても適切な解答が返ってくるのなら、「他の部分もきっと大丈夫だろう」と思うし、そもそも疲れてしまって、別の部分を指摘する気はなくなってしまうだろう。だから、手札を少しずつ切っていくということは、大事な動き方である。

感情に配慮すること

交渉においては、感情に配慮する必要がある。特に、こちらからお願いをするパターンは、感情への配慮がより重要になる。というのも、正しいことを主張したとしても「嫌なものは嫌です」と言われれば、そこで破談するからだ。「正しいことを主張すれば、相手も正しく考え、正しい結論を導き出せる」という考え方は、机上の空論でしかない。むしろ、相手への配慮や共感がなく、正しいことだけを一辺倒で主張されると、ますます反発したくなるのが人間で、そのために交渉が難しくなる場合も多く存在する。

特にケースやその関係者との話し合いでは、一般的ではない価値観や優先順位を持っている人も多いため、正しいかどうかは二の次で、相手の感情をどのように配慮していくかを考えながら進めていかなければ、上手く収まらない。

おわりに

普段、ケースやその関係者と話す時に考えていることを書き出してみた。

ケースワーカーに配属されたばかりの人などは、人によって”常識”や”普通”が異なることにイライラを募らせる人もいるようだ。自分の”常識”では理解できない言動や行動に接して、愚痴を言う人も多い。Twitterなどでも、そういう人をよく見かける。

しかし、愚痴を言っても仕事は前に進まない。愚痴を言うぐらいだったら、他に利用できる制度がないかを調べたり、どうやって交渉すれば納得してくれるかを考えたほうがよほどいい。声色や目線、身振り手振りだけでも、印象はだいぶ異なってくる。

自治体では、コミュニケーションが上手くないがために、自分からトラブルを招いてしまうワーカーが散見される。そうすると、なおさらコミュニケーションを学ぶ機会が重要である。しかしワーカーは、制度理解や日々の業務に精一杯で、ケースとのコミュニケーションを振り返って学ぶ時間がない。

例えば「あそこの福祉事務所は応対がいい」というような”接遇競争”があってもよいと思うのだが、なかなかそういう方向には進んでいかない。各福祉事務所で、そういった研修が広まってくれないかと、一従事者としては思うところである。